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もうひとつの今治城 [遺跡]

久々の更新となりました。 基本的な内容は変わりませんが、細かいネタが消化不良気味に溜まってきたため、今まで以上に裏付けの不十分なものも、簡単に整理しつつ掲載してみたいと思います。 また、今後は、今回のような実地の紹介と合わせて取り上げていくことになるかもしれません。

もうひとつの今治城

伊予国の今治城は関が原合戦の恩賞として伊予半国20万石を得た藤堂高虎が、当時寒村であったとされる今治平野の海岸近くに海水を取り入れた堀を巡らせて築いた平城です。

その後、藤堂氏から松平氏へと藩主が変わっても今治藩の持城として、江戸時代を通じて利用されました。 現在では、当時の建造物が残存するわけではありませんが、本丸を囲う堀が残り、天守閣などが復元された状態となっています。

ところで、今治市内には一見お城と見まがう建造物が存在しているのですが、下の写真がその遠景です。

日吉の城現代版

その実態はお城風の外装を持ったマンションで、立地する小山の最頂部には天守閣を模した建物が建っています。 間近から見れば人の居住している場所であると分かりますが、それでも、見える角度と距離によっては、一見、城郭が建っているようにも見え、不慣れな人には今治城と誤認されることもあるようです。

ここでこの建築物を取り上げたのは、現代の風変わりな建築物の紹介ではなく、その立地に関わるお話によるものです。

日吉の城

このお城風マンションの建つ場所こそ、以前取り上げた、来島村上氏の家臣、 原筑後守房康が居城とした「日吉の城」が存在した場所 と思われます。 このマンションが建てられたのは昭和40年代の話ですが、大正時代の地図では、この小山は「城台山」と記されます[1]。 また、麓にはかつて「御城山」のホノギが残っていたようです[2]。 そこから南方へ抜けるとおりは現代でも「城山通り」と呼ばれ、かつては日吉村の中心部を貫く通りでした。

恐らくはこのマンションを建てた人物はこの地がかつての城跡として伝わっていることを承知の上で、このような建造物を建てたものでしょう。

地図でもわかるように「日吉の城」のその立地からは、日吉郷の平野を望み、今治平野を北上した旧南海道の先が西へ折れて野間郡へと向かうルートを抑える位置にあたります。 来島村上氏の永禄年間の日吉郷への進出は足利将軍の側近梅仙軒霊超の所領海禅寺分を押領する形で進み、その拠点がこの海禅寺を間近に望む日吉の城であったと思われます。

また、城の北方、裏手から尾根沿いを伝い越智、野間両郡の境に位置する近見山に存在した近見山城(石井山城、明神山城とも)へも抜けることが可能です。 来島村上氏の今治平野(府中)への進出には重見通種の反乱以降に重見氏の勢力が低下したことが背景にあるのではないかと思うのですが、近見山城との関係を含め詳細は明らかでは有りません。

来島村上氏と重見氏

この当時、重見氏と村上氏がどのような関係にあったのか、府中地域の戦国時代の実態を見る上でもここがはっきりしないことが大きな問題のひとつと言えそうです。

重見氏の居城、近見山城からは東の石井村、北の高部村、西の延喜村などへ抜けることができるはずですが、石井山城の別名から、石井村側が近見山城の大手であったのではないでしょうか。 その石井村近傍、海岸近くに有る湊山城は房康と同族であろう原四郎兵衛の居城とされ、日吉の城を来島村上氏が押さえることとなれば、重見氏が近見山城での勢力を維持していた場合でも、周囲をほぼ来島系の勢力に囲まれた形となっていたはずです。

実際、重見氏の風早郡での持ち城と伝わる日高山城についても、村上彦右衛門吉清が籠城していたとするなど[3]、来島系の伝承も残ります。 ここからは重見氏の勢力を上書きするあるいは重見氏を事実上傘下に置く形となった可能性も考えられそうです。

こうした来島村上氏と重見氏の関係を見る上で参考になるかもしれない伝承を次回は紹介してみます。

注釈

  1. 阿部利三郎「今治市街全図」(1923年)
  2. 「伊予國越智郡地誌」(『今治郷土史 資料編 近・現代2 今治地誌集』1987年)は明治13年のものです。
  3. 『南紀徳川史』巻46 名臣伝第7 「村上義清」(堀内信編『南紀徳川史』、名著出版)では吉清が日高の城に籠城していたと伝えます。実際、「山田家文書」(大阪城天守閣蔵、寺川仁「大阪城天守閣蔵小早川隆景文書について」『伊予史談』319号)に残る天正11年の2通の小早川隆景書状では日高の地名とそこに来嶋衆が関わっていることが示されています。

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